名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)2513号 判決 1990年2月28日
原告
北條勉
ほか一名
被告
同和火災海上保険株式会社
主文
一 反訴被告は、反訴原告北條勉に対し、金二四九万六四〇一円およびこれに対する昭和六二年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告は、反訴原告北山直正に対し、金三五〇万九七九五円およびこれに対する昭和六二年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 反訴原告らのその余の請求を棄却する。
四 反訴費用は、これを一〇分し、その八を反訴被告の負担とし、その余を反訴原告らの負担とする。
五 この判決は、第一および第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 反訴請求の趣旨
1 反訴被告は、反訴原告北條勉に対し金二六二万八五六八円及びこれに対する昭和六二年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 反訴被告は、反訴原告北山直正に対し金四二七万五二一一円及びこれに対する昭和六二年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 反訴請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 訴外濱川和代(以下「濱川」という。)は、昭和六一年七月五日、反訴被告(以下「被告」という。)との間で、被保険車両を自家用乗用自動車(車台番号MS一一〇―〇一六二五三、尾張小牧五六も一七八一)、記名被保険者を濱川とし、対人事故について保険金額を無制限とする自動車保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)。
2 濱川は、昭和六二年四月二五日午前一時五〇分ころ、広島県福山市明神町明神交差点において、反訴原告北條勉(以下「原告北條」という。)所有の普通乗用自動車(名古屋三三や四一二二)に、同原告及び反訴原告北山直正(以下「原告北山」という。)を同乗させて運転中、自損事故を起こし、原告両名が負傷した(以下「本件事故」という。)。
3 本件保険契約には、「他車運転危険担保特約」があり、「記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が、自ら運転者として運転中の他の自動車を被保険自動車とみなして、被保険自動車の保険契約の条件に従い、普通保険約款賠償責任条項を適用する」(同特約三条)と規定され、「他の自動車とは、記名保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が所有する以外の自動車である」(同特約二条)ところ、濱川が本件事故時に運転していた車両は右にいう「他の自動車」に該当する。
4 右他車運転危険担保特約により適用を受ける普通保険約款賠償責任条項六条一項には「対人事故により被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生したときは、損害賠償請求権者は、当会社が被保険者に対しててん補責任を負う限度において、当会社に対して三項に定める損害賠償額の支払いを請求することができます。」と規定され、同条三項は、請求しうる損害賠償額について、「被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額」から「自賠責保険等によつて支払われる金額」及び「被保険者が損害賠償請求権者に対してすでに支払つた損害賠償金の額」を差し引いた額と定めている。
5 原告北條の損害等
(一) 原告北條は、本件事故により第五頸椎脱臼骨折の傷害を負い、昭和六二年四月二五日から同年五月一七日までの二三日間、福山市市民病院に入院し、同月一九日から同年七月二五日までの六八日間、愛知県済生会病院に入院し、翌二六日から同年九月三〇日までの六七日間、同病院に通院した。
(二) 損害 金二六二万八五六八円
(1) 入院雑費 金九万一〇〇〇円
一日当たり一〇〇〇円が相当で九一日間分
(2) 治療費 金三四万七〇六八円
福山市市民病院分 金一八万〇一八〇円
愛知県済生会病院分 金一六万六八八八円
(3) 休業損害 金九五万八五〇〇円
原告北條は、北條塗装との屋号で一般塗装工事請負業を営み、年間二三〇万円(月平均一九万一七〇〇円)の収入を得ていたところ、本件事故により昭和六二年四月二五日から同年九月三〇日までの五か月間休業を余儀なくされたが、その間の休業損害は一九万一七〇〇円×五か月により算出された前記金額となる。
(4) 入通院慰謝料 金一二三万二〇〇〇円
原告北條の前記入通院期間に照らすと、入通院慰謝料としては金一二三万二〇〇〇円が相当である。
6 原告北山の損害等
(一) 原告北山は、本件事故により顔面挫傷、左上腕骨骨折、左肋骨骨折、左橈骨神経麻痺の傷害を負い、昭和六二年四月二五日から同年九月九日までの一三八日間、福山市市民病院に入院し、翌一〇日から現在に至るまで同病院に通院している。
(二) 損害 金四二七万五二一一円
(1) 入院雑費 金一三万八〇〇〇円
一日当たり一〇〇〇円が相当で一三八日間分
(2) 休業損害 金二一三万七二一一円
原告北山は、日本鋼管株式会社福山製鉄所に勤務し、本件事故前は給与等として年間三一一万二四二七円(月平均二五万九三六九円)の収入を得ていたが、本件事故により昭和六二年四月二五日から昭和六三年一月三一日までの三一二日間休業を余儀なくされ、その間同社より支給された給与等は六万三二七四円のみであるので、同人の休業損害は左記により算出された金額となる。
三一一万二四二七円÷三六五日×三一二日-六万三二七四円=二五九万七二一一円
ところで、原告北山は自賠責保険から休業損害補償分として金四六万円の支払いを受けているので、反訴被告に請求すべき休業損害額としては前記金額から右四六万円を控除した金二一三万七二一一円となる。
(3) 入通院慰謝料 金二〇〇万円
原告北山の前記入通院期間に照らすと、入通院慰謝料としては金二〇〇万円が相当である。
よつて、原告らは、被告に対して、本件保険契約に基づき、原告北條は金二六二万八五六八円の、原告北山は金四二七万五二一一円の各金員及びこれらに対する本件事故発生の日である昭和六二年四月二五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金相当の金員の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1及び2はいずれも認める。
2 同3のうち、濱川が本件事故時に運転していた車両は他車運転危険担保特約にいう他車に該当するとの点は争い、その余は認める。
なお、他車運転危険担保特約二条にいう配偶者にはいわゆる内縁の配偶者が含まれると解されるところ、濱川と原告北條は本件事故当時内縁関係にあつたから被告は原告らに対し、保険金支払義務を負うものではない。
3 同4は認める。
4 同5及び6は不知。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるので、これらを引用する。
理由
一 請求原因1、2及び4はいずれも当事者間に争いがなく、同3についても本件車両が他車運転危険担保特約第二条にいう「他の自動車」に該当するとの点を除き、当事者間に争いがない。
二 被告は、他車運転危険担保特約第二条にいう「配偶者」には内縁関係にある者も含まれると解されるところ、濱川と原告北條とは本件事故当時内縁関係にあつたから、原告北條所有の本件車両は同条にいう「他の自動車」には該当せず、被告は原告らに対し、保険金支払義務を負わない旨主張する。
そこで、まず、他車運転危険担保特約第二条にいう「配偶者」には内縁関係にある者をも含むと解すべきか否かにつき検討する。
成立に争いのない甲第三号証によれば、他車運転危険担保特約第二条は「この特約において、他の自動車とは、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が所有する自動車以外の自動車であつて、その用途および車種が自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、自家用軽四輪乗用車、自家用小型貨物車または自家用軽四輪貨物車であるものをいう」旨規定していることが認められるところ、本条の趣旨は、他車運転危険担保特約が記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族が一時的に他人の自動車を借用して運転する場合の事故についても、被保険自動車に付されている保険契約と同様の条件で、割増保険料を徴さずに保険保護をあたえるもの(同特約第三条一項)であることから、「他の自動車」の定義を厳格に定め、本来、記名被保険者またはその配偶者等が別途保険料を負担して契約すべき所有自動車等については、不当な保険料節約と同特約による拡張担保の範囲が無制限に拡がることを防止し、保険者が同特約により負担する保険金支払義務の範囲を明確にすることにあると解される。
そうとすれば、「他の自動車」の範囲を明確にするための同特約第二条にいう「配偶者」の解釈は、一義的に明確になされるべきである。また、同様の理由から同特約における被保険者の範囲を定める同特約第三条にいう「配偶者」の解釈も、明確になされるべきである(特約第二条にいう「配偶者」と特約第三条にいう「配偶者」の解釈が統一的になされるべきものであることはいうまでもない。)。従つて、いずれも法律上の配偶者を指し、内縁関係を含まないと解するのが相当である。
従つて、仮に、濱川と原告北條とが本件事故当時内縁関係にあつたとしても、本件車両は、他車運転危険担保特約第二条にいう「他の自動車」に該当し、被告は、本件事故による原告らの損害につき保険金支払義務を負う。
三 原告北條の受傷および治療経過
成立に争いのない乙第一および第二号証、乙第六号証、乙第一二号証の一、二、原告北條本人尋問の結果によれば、原告北條は、本件事故により第五頸椎脱臼骨折の傷害を負い、昭和六二年四月二五日から同年五月一七日までの二三日間、福山市市民病院に入院し、同年五月一九日から同年七月二五日までの六八日間、愛知県済生会病院に入院し、同年七月二六日から同年九月三〇日までの六七日間(実通院日数不明)、同病院に通院したことが認められる。
四 原告北條の損害
1 治療費 三四万七〇六八円
前掲乙第六号証、乙第一二号証の一、二によれば、原告北條は、前記治療等のために三四万七〇六八円(福山市市民病院分一八万〇一八〇円、愛知県済生会病院分 一六万六八八八円)の治療費等を要したことが認められる。
2 入院雑費 九万一〇〇〇円
弁論の全趣旨によれば、原告北條は、入院中一日一〇〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められる。
3 休業損害 九五万八三三三円
原告北條本人尋問の結果およびこれにより真正に作成されたものと認められる乙第四号証によれば、原告北條は、「北條塗装」の屋号で一般塗装工事請負業を営み、昭和六一年度は二三〇万円の収入を得ていたものであり、本件事故当時も右と同額の収入を得ていたものと推認されるところ、原告北條は本件事故による前記受傷のために五か月を下らない期間休業を余儀なくされたものと認められるから九五万八三三三円を下らない休業損害を被つたものと認められる。
二三〇万円÷一二月×五月=九五万八三三三円
(円未満切捨)
4 入通院慰謝料 一一〇万円
原告北條の受傷内容、治療経過等諸般の事情を総合考慮すれば、原告北條に対する慰謝料としては一一〇万円をもつて相当と認める。
5 小括
原告北條の損害は合計二四九万六四〇一円である。
五 原告北山の受傷および治療経過
前掲乙第一二号証の一、二、成立に争いのない乙第七および第八号証、原告北山本人尋問の結果によれば、原告北山は、本件事故により左上腕骨骨折、左肋骨骨折、左橈骨神経麻痺等の傷害を負い、昭和六二年四月二五日から同年九月九日までの一三八日間、福山市市民病院に入院し、昭和六二年九月二〇日から昭和六三年一月二八日までの一四一日間(実通院日数一二日)、同病院に通院したことが認められる。
六 原告北山の損害
1 入院雑費 一二万八四〇〇円
弁論の全趣旨によれば、原告北山は、入院中、当初九〇日間は一日一〇〇〇円を、その後は一日八〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められる。
九〇日×一〇〇〇円+四八日×八〇〇円=一二万八四〇〇円
2 休業損害 一八八万一三九五円
原告北山本人尋問の結果およびこれにより真正に作成されたものと認められる乙第一〇号証、乙第一一号証の一ないし七によれば、原告北山は、日本鋼管株式会社福山製鉄所に勤務し、昭和六一年度は三一一万二四二七円の収入を得ていたものであり、本件事故当時も右と同額の収入を得ていたものと推認されるところ、原告北山は本件事故による前記受傷のために昭和六二年四月二五日から昭和六三年一月三一日までの二八二日間休業を余儀なくされ、その間同社より支給された給与等は六万三二七四円であることが認められるから、二三四万一三九五円の休業損害を被つたものと認められるところ、原告北山は、自賠責保険から休業損害分として四六万円支払を受けているので、原告北山の休業損害残額は一八八万一三九五円となる。
三一一万二四二七円÷三六五日×二八二日-(六万三二七四円+四六万円)=一八八万一三九五円(円未満切捨)
3 入通院慰謝料 一五〇万円
原告北山の受傷内容、治療経過等諸般の事情を総合考慮すれば、原告北山に対する慰謝料としては一五〇万円をもつて相当と認める。
4 小括
原告北山の損害は合計三五〇万九七九五円である。
七 結論
以上の次第で、原告らの被告に対する反訴請求は、被告に対し、本件保険契約に基づき、原告北條において二四九万六四〇一円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和六二年四月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金相当の金員の支払を、原告北山において三五〇万九七九五円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和六二年四月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金相当の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 深見玲子)